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ルーシーさんの伝えたいニューイスラエルフードの魅力

2017.11.1

ルーシーさんの伝えたいニューイスラエルフードの魅力

はじめまして、浅見麻衣です。
日本メディアの特派員としてエルサレムに拠点を置き、イスラエルを取材して3年半になります。1948年の建国以来、周囲を敵対する国々・勢力に囲まれ、天然資源が限られたこの土地で、現在は「中東のシリコンバレー」と注目されるほどの経済発展を遂げられたのは、「人材の豊かさ」に理由があるとされます。

イスラエルの国土は四国より少し大きい程度で、人口は約870万人。決して大きな国ではありませんが、世界中からユダヤ人が集まり、さまざまな文化が流入・混在しています。したがって、「イスラエル人」と一言でくくることは難しいですが、よく言われるイスラエル人の特徴の一つに「Think out of the box(既存の枠組みにとらわれずに物事を考える)」があります。

日々取材をしていると、本当に多くの「へえ!」という出来事や人に出会います。今回は私が出会ったイスラエル人の中から、私自身いい刺激を受け、「イスラエル人らしい」と感じた女性の一人をご紹介できたらと思います。

シェフ兼フードジャーナリストの、ルーシー・ルッソさん(40) photo credid: Zohar Ron

午前5時。イスラエルの商都テルアビブ。この街に住むシェフ兼フードジャーナリストの、ルーシー・ルッソさん(40)の一日はキッチンで始まります。7時までの2時間、有機野菜やスーパーフードをふんだんに使った料理を次々につくり、それを一日分の食事として小分けにし、近隣に住むお客さんに届けているのです。

これは、「豊かな食事が人間を高める」と考えるルーシーさんが2カ月前から始めた「新たなプロジェクト」。その後の午前8時から、娘たちが学校から戻る午後1時半までは、これまで通り「イスラエルのフード外交官」(地元紙)として、テレビ撮影や執筆などを忙しくこなします。

ルーシーさんは、アメリカ人の父とイスラエル人の母の下、米ボストンで生まれました。3歳の時に家族でイスラエルに移住し、中部にあるラモット・ハシャビムという村で育ちました。兵役終了後の22歳、ニューヨークに単身で渡り、マンハッタンとスタテン島とを結ぶフェリーの上でウェイトレスとして勤務。そんな時、知人の紹介で、米国の料理界の最前線で活躍しているシェフ、デヴィッド・バークさんに出会ったのが「転機」だったといいます。

「いいレストランは食べてる人の幸せで満ちている。レストラン業に恋に落ちたんです」。日中はデヴィッド・バークさんの助手を務め、夜は料理学校に通う日々を3年送りました。

しかし、イスラエルに帰国後、就いた仕事は新聞記者。兵役中に広報担当をしていたこともあり「書くことへの情熱もあった」ためです。大手新聞社で6年間、昼夜問わず働く日々を送りました。

そして、次に転機が訪れたのは長女の出産でした。「これまでと同じ働き方はできない」と痛感し、比較的自分のペースで仕事ができるフードジャーナリストに転身。実はルーシーさんの母もフードジャーナリスト。昔は母と同じ仕事に就くのに抵抗があったそうですが、この時は「自然な流れ」を感じたといいます。

ルーシーさんの伝えたいニューイスラエルフードの魅力ルーシーさんの伝えたいニューイスラエルフードの魅力

フードジャーナリストとして書いていた題材の一つが「ニュー・イスラエル・フード」でした。イスラエル料理というと、ひよこ豆のペースト「フムス」やトマトソースに卵を割り入れた「シャクシューカ」が有名ですが、いずれも本来中東や北アフリカの料理。テルアビブでは、お寿司やラーメンなどの日本食も流行していて、お寿司に関しては、東京、ニューヨークに次いで3番目に寿司料理店が多いという統計があるほどです。

定義の難しいイスラエル料理ですが、ルーシーさんは「ニュー・イスラエル・フード」を「いろいろな引用の集合体」だと表現します。イスラエルとの紛争を抱えるパレスチナの料理からもどんどん「引用」します。ルーシーさんは「お皿の上で和平が実現するなら、現実でもそれが可能なはずだ」と信じています。

ルーシーさんの伝えたいニューイスラエルフードの魅力ルーシーさんの伝えたいニューイスラエルフードの魅力

今は、こうした「ニュー・イスラエル・フード」を世界に広めるべく、自らシェフとして様々な国を訪れ、地元のシェフらと交流しながらイベントを行っています。

ルーシーさんの伝えたいニューイスラエルフードの魅力

イスラエル人は家族との時間を大切にします。ルーシーさんも例に漏れません。仕事だけでなく、母親業も全力。朝の料理を作り終わった午前7時から1時間と、仕事を終えた午後1時半以降は、長女タルマちゃん(10)と次女ダフネちゃん(8)の2人と一緒に過ごす時間と決めています。「ただただ、彼女たちと一緒にいるのが楽しくて仕方ない」と笑うルーシーさん。その膝元では飼い猫もちゃっかり甘えていました。

最後に、ルーシーさんに「幸せの秘訣」を尋ねたところ、「家族」と即答。「私にとっては、料理よりも人間関係の方が重要。家族が一緒にいられれば、豊かな気持ちになれるのです」。ルーシーさんの料理が、愛情と表現力に満ちている理由が分かった気がしました。

ジャーナリスト 浅見麻衣 ジャーナリスト 浅見麻衣
2004年、慶應義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。在学中1年間、米ブラウン大学に交換留学し、近現代美術史・建築史を学ぶ傍ら、ラクロス部にも参加。09年、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。同年、時事通信社入社。福岡支社、横浜総局、外信部、政治部を経て、14年からエルサレム支局特派員。芸術、自然、人の心など「美しいもの」を常に追求しています。